「伝統」が発展的に継承されるために、我々は「守る業・活かす業・創る業」をもって
様式や形態を超えた「創造」を地域の風土の中で展開したい。
旅の中で鉄道やバスの車窓に展開する広大な大地と地平線、
豊かな田園、森や湖、歴史的な街並、はじめて見る異国の風景を、
ただ飽きることなく眺め続ける時。
今までの断片的な知識の間隙が埋められてゆき、
「風土」という総合的な認識として構築されてゆく。
一方、写真や映像で知り得たもので成立する風景は、
生命体としての風景ではなく、「フェイク」化された風景や
自然にすぎない。自らの五感による体験と心の目によって
深く心に植えつけられたイメージ、それが原風景の実体である。
私たちが場を創る時、地域性の表象として、
地域の基調景観、そして地域の素材 (樹木、石、その他)、
地域の伝統的手法などを取り入れる事により、
他と差異化された場所性がより明確化すると考える。
身近な外界のものと連携して自らの感情を
深める手だてとしての事象を「情緒」と呼ぶ。
季語という文化を持つ私たちは、
季節の変化という自然の周期の中で
四季折々の風物、花、香、野鳥や虫たち、
これらと語り合う心を持っている。
また筧の水音、僧都、水琴窟、
松籟、虫の音、せせらぎ等々、
風景の音を「妙なる調べ」
と称し嗜好してきた。
この心の伝統は、
現代人のなかにも
生き続けているはずである。
音の世界――これは母親の胎内からの延長線上にある。
遠い昔の記憶を最も鮮明に心に想起させるのは、
音を媒介とした生活体験であろう。
身近な音は自然や風景からのメッセージであり、インフォメーションでもある。
音は、深層の記憶を甦らせ、目に見えない近景の事象をも人に語りかける。
象徴は具象よりも様々な表象を伝達し、
人を引きつける強い力を持つ。
カタルニアの風土が生んだ建築家、
アントニオ・ガウディのサグラダファミリア、
ゴシック風の類稀な造形は、はじめて見る人に驚異感を与えるが、
カタルニア地方を旅し、原風景の中においては、
フォルムにそれほどの奇異感はない。
垂直に群生する郊外の森の自然の造形に重なるものを見出すのである。
サグラダファミリア――
それはガウディが自然の森に見立てた神々の象徴ではなかろうか。
人は風景の中を通過する時、風景の特性を対比(図と地)と頻度(くりかえし)で記憶してゆく。
即ち実体験の効果がここにある。
かたちは見る人の持つ原イメージや周辺の風景との対比の中で、懐かしくも、らしくも見える。
したがって、何の意味性も必然性もないかたちやものまねは、奇異感そのものでしかない。
土に学び心を耕すが如く、私たちの事務所では
自然や仕事の現場から様々な知識や知恵を学び、
風土に対する先人の知恵をデザインや植物育成の手法に反映してきた。
従って、プロジェクトの展開に先立ち、
広く土地を読み状況を判断する事前の調査には
許される限りの時間とエネルギーを費やし、主体のみならず、
周辺の事象から主体の位置づけを見極める事にも心がけなければならない。
場合によっては、『安易に物をつくらない』という精神の節度も
守ってゆかなければならないであろう。
ランドスケープデザインにおいて、
視覚表現としてのビジブルの世界は言うまでもなく、
インビジブル(かくし味)の世界にこそ、人を感動させ、無意識のうちに
心地良いパラダイスへと誘ってくれる真実があり、
やすらぎがあり、本音がある。
私たちは、造形へのこだわりを持ち続け、
私たちのフィールドである「大地」において
それらを顕在化し、磨き上げ、
そして場の熟成を時間の中で見守ってゆきたい。